特定化学物質のリスクアセスメント義務化とその影響

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~2016年以降の法改正と企業への注意喚起~

はじめに

2016年6月1日より、労働安全衛生法の改正により、特定化学物質を含む一部の化学物質について、リスクアセスメントの実施が義務化されました。これは、労働者の健康障害を未然に防ぐための重要な制度であり、企業には化学物質の危険性を評価し、必要な措置を講じる責任が課されています。


義務化の背景

従来は、特定化学物質に対しては「特定化学物質障害予防規則」に基づく管理が求められていましたが、新たにリスクアセスメントの義務が加わったことで、より主体的な安全管理が求められるようになりました。これにより、企業は単なる法令遵守にとどまらず、現場の実態に即したリスク評価と対策が必要となっています。


違反時の罰則と対象者

リスクアセスメントの未実施や虚偽報告などの違反があった場合、以下のような罰則が科される可能性があります:

  • 労働安全衛生法違反として、企業や事業者に対して最大50万円以下の罰金
  • 重大な健康被害が発生した場合、業務停止命令や刑事責任の追及
  • 安全衛生管理者や化学物質管理者の責任も問われる可能性あり

違反の責任は、企業の代表者だけでなく、現場の管理責任者にも及ぶことがあるため、組織全体での取り組みが不可欠です。


実際の事例紹介

事例①:金属加工業における塩素系溶剤の管理不備

ある中小企業では、塩素系溶剤を使用していたにもかかわらず、リスクアセスメントを実施しておらず、作業員が呼吸器障害を発症。労働基準監督署の調査により、安全データシート(SDS)の未確認と換気設備の不備が判明し、企業には業務改善命令と罰金が科されました。

事例②:印刷業における有機溶剤の過剰曝露

印刷業の現場で、有機溶剤の使用量が多かったにもかかわらず、リスク評価が行われていなかったため、複数の作業員が健康被害を訴えました。企業はリスクアセスメントの未実施と作業環境測定の怠慢を指摘され、行政指導を受けることとなりました。


最近の取り組みと傾向

近年では、以下のような取り組みが進んでいます:

  • 厚生労働省による「化学物質管理の見える化」支援ツールの提供
  • 中小企業向けのリスクアセスメント支援セミナーの開催
  • SDSの電子化とAIによるリスク評価支援ツールの導入
  • ISO45001など国際規格との連携による安全管理の高度化

また、企業の間では「予防保全型の安全管理」への意識が高まり、単なる法令遵守から、従業員の健康を守るための積極的な取り組みへとシフトしています。


まとめ

特定化学物質のリスクアセスメント義務化は、企業にとって単なる法的義務ではなく、従業員の命と健康を守るための重要な責任です。違反による罰則は厳しく、企業の信頼にも大きな影響を与えるため、今一度、自社の化学物質管理体制を見直すことが求められます。


🔷 厚生労働省|化学物質による労働災害防止のための新たな規制


🔷 ケミサポ(職場の化学物質管理総合サイト)


🔷 厚生労働省|化学物質対策に関するQ&A


釜屋オンライン