前回の記事では、SUS304という「ブランド品」から、より実利的な材料への置き換えについてお話ししました。今回は、現場の皆様が最も汗を流す場所――「加工現場」にスポットを当てます。
ステンレスは、その美しさと強さの裏に「加工しにくい(難削材)」という気難しい一面を持っています。百貨店でいえば、見た目は最高にエレガントだけれど、仕立てるには熟練の技術が必要な「気位の高い生地」のようなものです。
切削や溶接の視点から、現場のストレスを減らし、利益率を劇的に変えるための「職人の目利き」を深掘りしていきましょう。
1. 切削加工:ステンレスの「粘り」をどういなすか?
ステンレスを削る際、多くの旋盤・フライス工を悩ませるのが「加工硬化」と「凝着(ぎょうちゃく)」です。
「怒らせると硬くなる」ステンレスの性質
SUS304などのオーステナイト系は、工具で力を加えると、その部分がみるみる硬くなる「加工硬化」という性質を持っています。まるで、しつこく声をかけると心を閉ざして頑固になる人のようです。
- 現場のヒント: 切れ味の悪い工具で「なめる」ように削るのは厳禁です。一気に、かつ一定の送り量で「潔く」切り込むのが、ステンレスを機嫌よく削るコツです。
SUS303という「裏メニュー」の活用
もし、あなたの設計図に「SUS304」と書かれていても、それが溶接を伴わず、耐食性もそこまで求められないボルトやシャフトであれば、ぜひSUS303への変更を提案してください。
- 圧倒的なサクサク感: SUS303は、硫黄(S)などを加えてチップブレーカー(切り屑)が細かく切れるように設計された「快削鋼」です。
- 口コミ情報: 「304だと1時間に10個しかできなかった部品が、303に変えたら15個できた。おまけにチップの寿命も倍になった」という話は、加工現場では日常茶飯事です。この30%の生産性向上が、百貨店のセール以上の利益を貴社にもたらします。
2. 溶接加工:美しさと強さを両立させる「熱のコントロール」
ステンレスの溶接は、まさに「光の芸術」ですが、一歩間違えると「歪みの地獄」に陥ります。
歪みとの戦い:304の弱点
SUS304は、鉄に比べて「熱が伝わりにくい(熱伝導率が低い)」一方で、「熱で膨らみやすい(熱膨張係数が大きい)」という、なんとも厄介な性格をしています。
熱が逃げないのに大きく膨らむ。その結果、溶接後に冷えると、板がグニャリと反ってしまうのです。
- 現場のヒント(フェライト系への置き換え): 前述のSUS430などのフェライト系は、実は304よりも熱膨張率が低く、熱伝導率が高い。つまり、「溶接歪みが出にくい」のです。精密な寸法精度が求められる筐体などでは、400系を選ぶことが「手直し工数」の大幅削減に繋がります。
「L」の付く材料で、未来の錆を防ぐ
溶接部が数年後に茶色く錆びてくる「粒界腐食」。これは溶接時の熱でクロムが炭素に奪われる現象です。
- 外商の提案: 長く愛される製品を作るなら、SUS304LやSUS316Lといった「ローカーボン(低炭素)」材を選んでください。炭素が少なければ、クロムが奪われる隙を与えません。これは、後から修理に走るコスト(クレーム対応費)を考えれば、非常に安い投資です。
3. 研磨・仕上げ:最後の「おもてなし」で価値を決める
加工が終わった後の「仕上げ」こそ、百貨店の包装紙のようなものです。
焼け取りは「お化粧直し」
溶接で焼けた青黒い跡(スケール)。これをどう処理するかで、製品の「格」が決まります。
- 中性電解液の魔法: 強酸(フッ硝酸)を使った酸洗いは強力ですが、環境負荷が高く、母材を傷めるリスクもあります。最近は中性電解液を使った「焼け取り機」が主流。安全でスピーディーに、ステンレス本来の輝きを取り戻せます。
表面粗さと口コミの関係
「ステンレスだから錆びないはずだ」という顧客の思い込みは危険です。実は、表面が荒い(梨地など)と、そこに汚れや塩分が溜まり、錆の原因になります。
- 業績へのヒント: 鏡面研磨(#400〜#800)まで行かなくとも、ヘアライン仕上げなど、滑らかな表面を維持することで、製品の寿命は伸びます。「掃除がしやすい」という口コミは、リピート発注の強力な武器になります。
4. 加工視点での「利益最大化」マトリックス
現場での判断をスムーズにするため、加工方法に応じた最適な「置き換え」をまとめました。
| 加工の悩み | 現在の材料 | 提案する「次の一手」 | 期待できる効果 |
| 旋盤で工具がすぐダメになる | SUS304 | SUS303 | 刃物寿命UP・加工時間短縮 |
| 溶接後に板が反って困る | SUS304 | SUS430 / SUS443CT | 歪み防止・修正工数の削減 |
| 深絞りで割れが発生する | SUS304 | SUS304L / SUS305 | 加工性の安定・不良率低下 |
| 極低温や高温で使いたい | SUS430 | SUS304 | 脆化防止・高温強度の確保 |
5. Happyな現場は「対話」から生まれる
加工現場の職人さんは、材料の「悲鳴」を一番近くで聞いています。
「この図面、304指定だけど、430に変えたほうが歪まなくて綺麗に仕上がるよ」
そんな現場からの声を、設計や営業が「そうだね、コストも下がるし一石二鳥だ!」と柔軟に受け入れる。このキャッチボールこそが、製造業の風通しを良くし、最終的な業績(Happy)へと繋がります。
SUSという素材は、加工の工夫次第で、ダイヤモンドのような利益を生む原石にもなれば、ただの「扱いにくい鉄くず」にもなります。ぜひ、材料の特性を「知恵」に変えて、現場を輝かせてください。
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