前回の「ドリル折れ」という悲劇に続き、今回は溶接現場の華、そして最大の悩みどころである「溶接ビードの汚れ」についてお話しします。
SUS(ステンレス)の溶接ビードが、虹色の美しい「芸術品」になるか、あるいは煤けた真っ黒な「焦げ跡」になるか。これは百貨店でいえば、プレゼントのラッピングが美しいリボンで飾られているか、それとも粘着テープがベタベタに貼られているかほどの違いがあります。
見た目が悪いだけでなく、ビードが汚れているということは、そこに不純物が混ざり、将来的な「錆び」や「強度不足」の種を撒いていることと同じなのです。
1. なぜビードは「真っ黒」に拗ねてしまうのか?
ステンレスが「錆びにくい」のは、表面にクロムのバリア(不動態皮膜)があるからだと言いましたね。しかし、溶接時の高温状態では、このクロムが空気中の酸素と猛烈な勢いで結びつき、「酸化スケール」という真っ黒な膜を作ってしまいます。
これがビード汚れの正体。つまり、ステンレスが熱に耐えきれず「酸欠」ならぬ「酸素過多」で火傷を負った状態です。
現場の「あるある」口コミ
「昨日は綺麗に焼けたのに、今日はなぜか真っ黒。同じ電流設定なのになんで?」
それは、現場の「風」や「ガス」の機嫌が悪いのかもしれません。
2. ビードを「虹色」に輝かせる3つの作法
百貨店のショーケースを磨き上げるように、溶接ビードを美しく保つには、酸素を徹底的にシャットアウトする「ガードの固さ」が必要です。
① シールドガスの「包容力」
TIG溶接などで使うアルゴンガスは、溶接部を酸素から守るカーテンです。
- ヒント: ガスの流量が少なすぎると守りきれませんが、逆に多すぎると「乱気流」が起きて外の空気を巻き込んでしまいます。また、ノズルから出た後の「アフターフロー(溶接が終わった後もしばらくガスを出し続けること)」をケチっていませんか? 溶接部が冷えるまで、ガスで優しく包み込んであげることが、美しい銀色や虹色を残すコツです。
② 「裏側」への気配り(バックシールド)
表側が綺麗でも、裏側が「イカの黒作り」のように真っ黒になっていませんか?
- ヒント: 配管やタンクの溶接では、内側にもアルゴンガスを満たす「バックシールド」が不可欠です。裏側の汚れは、製品の腐食や流体の汚染に直結します。見えないところへの気配りこそ、一流の職人の証です。
③ 「層間温度」を守る心の余裕
早く終わらせようと連続で溶接すると、母材に熱が蓄積し、酸化が加速します。
- ヒント: 溶接部が手で触れる(あるいは適切な温度に下がる)まで待つ「層間温度の管理」を徹底しましょう。焦りは禁物。百貨店の接客と同じく、丁寧な間合いが最高の結果を生みます。
3. 材料選びで「汚れ」を未然に防ぐ
もし、どうしてもビードが汚れて困る、あるいは後処理(焼け取り)を楽にしたいなら、材料の「血統」を見直してみましょう。
- SUS308(溶加棒)の選定: 母材が304なら、溶接棒には少しクロム含有量の多い308を使うのが定石です。これにより、溶接金属の耐食性を確保し、汚れを最小限に抑えられます。
- 表面状態のチェック: 加工前の材料に油分や指紋、保護シートの糊が残っていませんか? これらが熱で焼けると、頑固な汚れ(炭化物)になります。溶接前の「脱脂」という一手間が、後の研磨時間を1時間減らす投資になります。
4. 汚れてしまった後の「お化粧直し」戦略
どんなに気をつけても出る「焼け」を、どう効率的に消すか。これが業績を左右します。
| 処理方法 | メリット | デメリット |
| 物理的研磨(グラインダー) | 安価、どこでもできる | 削りすぎのリスク、粉塵が出る |
| 酸洗い(薬品) | 複雑な形状も一気に綺麗に | 劇物使用による環境負荷、ムラが出やすい |
| 電気化学的焼け取り | 最速・安全・仕上がりが極美 | 初期設備(焼け取り機)のコスト |
業績アップのヒント:
もし今、職人さんが毎日何時間もグラインダーをかけているなら、最新の「電解焼け取り機」を導入してみてください。数分で終わる作業に変われば、浮いた時間で別の仕事が受注できます。これこそが「Happyな設備投資」です。
5. 知識の向上が「誇り」を生む
真っ黒に汚れたビードを「溶接なんてこんなもんだ」と諦めるか、「どうすればもっと輝くか」と追求するか。この差が、1年後の技術力と信頼の差になります。
虹色のビードは、ガス、電流、スピード、そして職人の心が完璧に調和した時にだけ現れます。その美しさを顧客に見せた時、「おっ、いい仕事してるね」という一言がもらえるはずです。その瞬間の満足感こそ、製造業に携わる私たちの最大の報酬ではないでしょうか。
ビードの汚れを「技術向上のサイン」と捉え、今日からガスの設定一つ、掃除の一手間を変えてみてください。
釜屋オンライン


