前回の記事では、SUS(ステンレス)の加工全般についてお話ししましたが、今回はさらに現場の「悲鳴」が聞こえてきそうなピンポイントな悩み、「ドリルが折れる」という問題にフォーカスします。

アラカルト

百貨店に例えるなら、最高級のシルク生地に針を通そうとしたら、生地が硬すぎて針がポキリと折れてしまったような状況です。これでは作業は止まり、心も折れ、利益も削られてしまいます。

なぜSUS304という「お嬢様」は、ドリルの先端をあんなにも冷酷に跳ね返し、折ってしまうのか。その理由を紐解き、現場に笑顔(と折れないドリル)を取り戻すためのヒントを伝授します。


1. 犯人は「加工硬化」という名のガードの固さ

ステンレス、特にSUS304がドリルを折る最大の理由は、前回も少し触れた**「加工硬化」**です。

ステンレスは、切削の熱や圧力が加わると、その瞬間に表面がカチカチに硬くなる性質があります。ドリルが先端で「もたもた」していると、ステンレス側が「あ、攻撃される!」と察知し、ドリルよりも硬いバリアを張ってしまうのです。

現場で起きている「口コミ」的悲劇

「ちょっと切れ味が悪いなと思いながら使い続けたら、急にドリルが全く進まなくなって、最後はバキッと……」

これは典型的な加工硬化の罠です。硬くなった層をさらに無理に掘ろうとするから、細いドリルは耐えきれずに折れてしまうのです。


2. ドリルを守るための「3つの黄金律」

百貨店の一流の仕立て屋が、生地に合わせて針や糸を変えるように、ドリル加工にも「ステンレス専用の作法」があります。

① 「なめない」ための送り速度

ステンレス加工において、遠慮は禁物です。加工硬化層ができる前に、その下まで一気に刃を食い込ませる必要があります。

  • ヒント: 回転数を少し落とし、逆に「一回転あたりの送り量」を増やしてみてください。ドリルを「押し込む」イメージです。チマチマ削るのが一番のタブーです。

② 「冷却」はケチらず、たっぷりと

ステンレスは熱伝導率が悪いため、発生した熱がドリルの刃先に集中します。刃先が高温になると、ドリル自体の硬度が落ち(なまされる)、そこにステンレスが「凝着」して食いつき、ボキッと行きます。

  • ヒント: 水溶性切削油を、これでもかというくらい刃先に直接かけてください。百貨店の噴水のように、絶え間ない冷却がドリルを救います。

③ 「ステップ加工」のタイミング

深い穴を開けるとき、切り屑が詰まるのも折れる原因です。

  • ヒント: ドリルをこまめに抜いて切り屑を排出する「ステップ加工」を行いますが、ここでも注意! 抜いた後、再び穴の底に当たる瞬間は、加工硬化層を突き破るために鋭く切り込む必要があります。

3. 道具選びで「業績」を変える:高級ドリルのコスパ

「1本100円のドリルが10本折れる」のと、「1本3000円のドリルで100個穴が開く」のでは、どちらがHappyでしょうか?

コバルトハイスと超硬ドリルの使い分け

  • コバルトハイス: 靭性(粘り)があり、折れにくいですが、摩耗は早め。
  • 超硬ドリル: 圧倒的に硬く、加工硬化層もサクサク進みますが、芯がズレると一瞬でパリンと割れます。
  • 外商の提案: 最近の「ステンレス専用超硬ドリル」は、表面に特殊なコーティングが施されており、熱と摩耗に非常に強くなっています。初期投資は高く見えますが、ドリル交換の手間(ダウンタイム)と、折れたドリルを抜き出す絶望的な時間を考えれば、業績向上への近道は間違いなく「良い道具」への投資です。

4. そもそも「折れない材料」への置き換えは可能か?

「ドリルが折れて仕事にならない!」というストレスから解放される究極の手段は、やはり材料の見直しです。

  • SUS303への変更: 以前もご紹介しましたが、穴開け加工が多い部品なら、SUS303に変えるだけでドリル折れの悩みは9割解決します。
  • 板厚の最適化: 穴を開ける箇所の強度を計算し、必要以上に厚い板を使っていないか再確認しましょう。板が薄くなれば、ドリルの負荷も、材料費も、輸送コストも下がります。

5. 知識向上で「折れない」現場マインドを作る

ドリルが折れるのは、作業者の腕が悪いからだけではありません。ステンレスという素材の「性格」を知らないことが最大の原因です。

現場のリーダーが、「ステンレスは怒らせると硬くなるから、一気に攻めろよ!」とユーモアを交えて指導できれば、若手のミスも減り、現場の雰囲気は明るくなります。

折れたドリルを見てため息をつく時間は、何も生み出しません。その1本を「なぜ折れたのか?」というデータに変え、次の加工条件に活かす。その積み重ねが、他社には真似できない「高精度・短納期」という強みになり、ひいては会社の利益=みんなのHappyへと繋がっていくのです。


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